接遇力を向上させる方法2【接遇トレーナーの選定と育成】


 

接遇力を向上させる方法1【接遇教育の進め方】」では、接遇教育を始めるうえで最も重要なオーナー、幹部の考え方についてお話をしました。
工程③「お店の接遇力向上のための接遇教育を行うことを伝える」が終わったら、具体的に接遇教育の形を作っていく段階に進めていきます。

今回のコラムでは工程④の「接遇教育の中心となる人材(トレーナー)の選定とトレーナーに対する教育を行う」という部分についてのお話をしていきます。
とても大切な項目なので、④-Ⅰ「接遇トレーナーの選定」と④-Ⅱ「接遇トレーナーの教育」という2部構成で進めていきます。

 

 工程④-Ⅰ「接遇トレーナーを選定する」

 

続いては、接遇教育の中心となる人材(トレーナー等)の選定を行って、トレーナーに対する教育を行っていきましょう。

接遇力向上のための接遇教育とはお店を上げた壮大なプロジェクトです。
そのプロジェクトの舵取りはオーナーや幹部の役割ですが、現場の指揮を取る人材がいなければ道に迷ってしまいます。

私が接遇教育に関わるときも、トレーナーに直接指導をして、そこからスタッフたちに伝えていってもらうようにしています。

店長などの役職者が兼任することもあると思いますが、現場のスタッフの中から選ぶ方がよいです。
仲間の中から選出されることで『一緒にがんばろう!』という気持ちがより強くなるからです。
スタッフのなかから選ぶ際は、キャリア、現場での接遇力、スタッフからの人望など、スタッフたちにとって説得力のある人材を選びましょう。
 

私がトレーナー教育を任されるのは、トレーナーの選任が終わった段階が多いのですが、その段階で初めてトレーナーと会うとほぼ全員が不安でいっぱいの顔をしています。

『自分がこんな役割を担って大丈夫かな』
『日常業務もあるのにやっていけるのかな』
『何から手をつければいいのか分からない』
『独学でやってきた接遇を人に教えていいものか』

このように、トレーナーに任命された直後からどんどん不安が大きくなっているものです。

そこで、私が提案するのが接遇力向上のプロジェクトチームを作ることです。

チームの構成としては、責任者にトップがいて、その下にトレーナーを数名選定してもいいですし、トレーナー1名とサブトレーナーを数名というスタイルでもいいと思います。
重要なのは、トレーナーがひとりで抱え込んでしまう環境にならないように気を付けるということ。
ひとりで抱え込んでしまうと偏りが生じたり、把握しきれないところが出てきてしまうからです。

チームを作ることで、お互いに足りないところを補い合って、得意分野を活かすことができます。
それによって気持ちに余裕ができ、広い視野を持って接遇教育に取り組めるようになるでしょう。

プロジェクトチームのメンバーであるトレーナー、サブトレーナーが決まった段階で、全てのスタッフにトレーナーたちの役割を理解してもらってください。
必ず、トップの口から直接「接遇教育をトレーナーたちに一任する」と伝えることが重要です。

このようにトレーナーたちの立場を明確化することで、現場で接遇教育を進めていくなかでスタッフたちへの働きかけがしやすくなります。
 

そして、もう一つ大切な環境づくりがあります。

トレーナーたちは接遇教育の専任ではなく、通常業務との兼務になることが多いはずなので、通常業務にプラスされてしまうと時間も足りなくなり、体力的にも精神的にも疲弊してしまいます。
そうなると、接遇教育の優先順位がどんどん下がって、いつの間にか立ち消えてしまうことになりかねません。

そうならないような環境を作るのがトップの役割です。
トレーナーの不安を取り除くこと他のスタッフの理解を得るといった部分を調整することで、トレーナーたちが接遇教育に集中できる環境をつくっておきましょう。
この環境を整えることによって、トレーナーが本来持っている力を発揮しやすくなります。

 

 工程④-Ⅱ「接遇トレーナーに対する教育を行う」

 

続いては、トレーナーたちの教育に進みます。

この項目に関しては、私が実際にトレーナー教育を行うときの方法をお伝えしていきます。
トップの皆さんにも共通する内容なので「トレーナー」の部分を「トップ」に置き換えて、トレーナーだけでなくご自身のことも思い浮かべながら読み進めてください。
 

私がトレーナー教育を行うときに確認する3つのポイントがあります。

1) スタッフについて
2) 接遇スキルについて
3) 顧客視点について

ここから一つひとつのポイントについて詳しくお話をしていきます。
 

1) スタッフについて

スタッフとの関係性を聴いてみると、そのトレーナーのスタッフへの関わり方が分かります。
一人ひとりスタッフの特徴を冷静に分析する人もいれば、足りないところばかり口にする人もいますし、仲の良いスタッフと関わりの薄いスタッフの情報量に大きな差がある人、自分は教える人(=立場が上)でスタッフは教えられる人(=立場が下)という固定概念にとらわれている人もいます。

トレーナーの心構えのなかでも重要なのはトレーナーとスタッフに上下関係はないということ。
そして、お客さまの一番近くで接客する全てのスタッフに接遇力を高めてもらうことが自分たちの役割であるという部分をしっかりと理解することです。

この心構えを理解することで、トレーナーの接遇教育に対する意識が大きく変わり、スタッフたちへの関わり方にも変化が表れます。

スタッフを無理やり変えることはできません。
スタッフ自身がやる気を持って、自分の接遇力向上に取り組めるように、スタッフの心の動きを敏感に感じ取りながら接遇教育を進めていく必要があるのです。
トレーナーはもちろん、トップの皆さんにも忘れないでいてほしいことです。
 

2) 接遇スキルについて

次に確認をするのは、トレーナー自身の接遇スキルについてです。

『高い接遇スキルを持っている人材をトレーナーに選んでいるから問題ない』と感じるかもしれませんが、周囲から見て接遇スキルが高かったとしても本人が自信を持っているかどうかは別の話です。
また、自分が接客することに対しては自信を持っていたとしても、人に教えるとなると自信がないという声もよく耳にします。

接遇スキルに自信がない場合は、まず自分自身のスキルを磨くところから始めていきますが、人に教えることに対する自信がないときはどうすればよいのでしょうか。
その答えは、接遇を客観視する力を磨いて、一つひとつの接遇に対して「何故、このように行動するのか」という理由を明確に伝えられるようになることです。

プレーヤーとトレーナーの違いは客観性です。
一つひとつの接遇に対する「なぜ?」を明確に説明できないと、説得力がなくなってしまいます。
現場での接客を感覚的に行ってきたトレーナーにとっては、このような理由を明確に伝えることが難しいのです。

私が教育に関わる場合は、最初に接遇スキルの基本を振り返る研修を行ってトレーナーの不安や疑問を解消しながら進めていきます。
この振り返りのなかで、一つひとつの接遇に対する「なぜ?」を考える練習をしてもらうことがトレーナーとしての思考のトレーニングになります。

この思考のトレーニングを行うことで、トレーナー自身が様々な角度から疑問を持てるようになり、私への質問の量が見違えるほど増えます。
そして、私からの回答を蓄積していくことでトレーナーの引き出しも増えていきます。

この知識の積み重ねでスタッフからの疑問質問に自信を持って答えられるようになり、スタッフにとって説得力のある指導ができるようになるのです。
 

3) 顧客視点について

トレーナーに求められる客観性のなかには「顧客視点」も含まれます。
お客さまと同じ空間にいるのに、お店の視点で凝り固まってしまって見えなくなっていることがたくさんあります。

例えば、毎日行っているお店の掃除でも無意識でやっているとお店の視点での掃除になります。
お客さまと同じ場所を歩き、同じ場所に座ってみると、お店の視点では気づかなったところが汚れていたり、散らかっていることに気づくはずです。

営業中に私服に着替えてお客さまと同じようにテーブルに座ってみてください。
 

スタッフの動きはどうですか?
テーブルの上のカスター類は美しい状態ですか?
テーブルの下や椅子は汚れていませんか?
椅子とテーブルの位置関係、座り心地はどうですか?
 

私は顧客視点を身につけることが接遇力を高めるうえで必須のスキルだと考えていますので、この顧客視点を身につけるトレーニングに十分な時間をかけます。
営業時間中にトレーナーと一緒にお店のなかをラウンドしたり、お客さまの立場で他店舗を訪れたりして、顧客視点のポイントが体にしみこむまで徹底的に体感してもらいます。
 

ここまでくると、トレーナーの中には確固たる自信と接遇教育に対する責任感が生まれてきます。
トップの皆さんと同じゴールを思い描いて、そのゴールに向かって歩き出してくれるはずです。

トレーナーを育てる時間が取れないので接遇教育を全て外部の研修会社に依頼をするという選択をされるお店もあると思います。
もちろん、それもひとつの方法ではありますが、私は接遇教育とは最終的にはお店のなかで行うべきものだと考えています。

外部の講師(コンサルタント)だけがスタッフの接遇教育を担当してしまうと、講師が毎日お店にいるわけではないので教育が行き届かない部分も出てきますし、いつまでも外部に依頼をし続けなければなりませんので当然コストもかかり続けることになります。

外部の研修会社に依頼する場合も、それと並行してトレーナー教育をしっかり行って、日頃の教育はトレーナーが行えるようにしておきましょう。

 

 まとめ

 
ここまで、接遇トレーナーの選定と教育についてお話をしてきました。
読み進めるなかで、ご自身のお店のトレーナーの顔が思い浮かんだのではないでしょうか?

トレーナー制度は取り入れているけれど、トレーナーに対する教育が足りていないというお店も少なくありません。
トレーニングの方法が分からないまま、自己流で何とか進めていくうちに心身ともに疲弊してしまって、スタッフの教育どころではなくなっているというトレーナーを今までに何人も見てきました。

文中でもお伝えした通り、プレーヤーとトレーナーは違います。
接遇力が高いスタッフだからと言って、そのままトレーナーになれるわけではないのです。

トレーナーが自信と誇りと責任感を持って、お店の接遇教育に取り組んでくれることが接遇教育の成功へとつながります。
この機会にトレーナー教育についても見直してみてはいかがでしょうか。
 

ここまで2回に渡って、「接遇力を向上させる方法1【接遇教育の進め方】」「接遇力を向上させる方法2【接遇トレーナーの選定と育成】」についてお話をしてきました。
最終回となる次のコラム「接遇力を向上させる方法3【接遇教育の計画と実行】」では、いよいよ最終工程である接遇教育の計画の作り方とスタッフへの接遇教育についてお伝えしていきます。

引き続き、読み進めていただいて、あなたのお店の接遇力向上のヒントを手に入れてくださいね。

 
 

執筆者:接遇コンサルタント 磯貝和美

接遇研修とコンサルティングを通じて、お客さまとスタッフから選ばれるお店づくりのお手伝いをしています。私が持ち続けているのは「スタッフが笑顔で働けるお店を増やしたい」という想いです。人育てなくしてお客さま満足は達成できません。私の役割は接遇のスキルを伝えることだけではなく、接遇力向上に必要な考え方を伝え、お店全体に接遇が浸透する仕組みをつくることです。本気でお店の接遇力向上をお考えのオーナー、幹部を全力でサポートします。
                                            磯貝和美のプロフィール

 
 

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接遇力が向上したお店に起きる3つの変化
接遇力を向上させる方法1 -接遇教育の進め方-
接遇力を向上させる方法2 -接遇トレーナーの選定と育成-
接遇力を向上させる方法3 -接遇教育の計画と実行-

 
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